7月のスマ農トピック②―大学生が見た先進農業の現場―果実堂見学レポート
IPCSAでは、スマート農業に関する情報発信や関係者同士のマッチングに加え、次世代を担う人材の育成も重要なテーマの一つとして取り組んでいます。今回は、学生さんから寄せられた「先進的な農業経営の現場を見てみたい」という声をきっかけに実現した見学です。
現場での学びや交流を通じて、新たな気づきやつながりが生まれた一日となりました。
見学の背景(IPCSA事務局)
今回見学に参加したのは、灌漑利水学を研究している九州大学の山本健志さんと、施設園芸を中心に農業×AIの研究に取り組んでいる東京大学の西村吉正さん(※)です。
お二人からは、「先進的な農業経営の現場を実際に見てみたい」「DXやデータ活用がどのように経営に生かされているのか学びたい」といった相談が寄せられていました。
そこで、ベビーリーフの生産・販売を手掛けるとともに、データ活用や業務改善にも積極的に取り組まれ、2024年日本DX大賞も受賞されている株式会社、果実堂様にご相談したところ、快く受け入れていただき、今回の見学が実現しました。
当日は、まずオフィスで会社概要や事業内容、経営の考え方などについてご説明いただいた後、研究施設やハウス(ほ場)を見学しました。技術導入の工夫だけでなく、それらをどのように経営や組織運営につなげているのかについてもお話を伺うことができ、学生にとって非常に刺激的な時間となったようです。
農業を学ぶ学生さんが、先進的な農業経営から現場で何を感じ、何を学んだのか。それでは実際に見学に参加した山本さんの気づき、そして感想をご紹介します。

※西村さんは、農業現場のノウハウやデータをAIで活用できる形に変え、農業経営や産地運営の意思決定を支援する「株式会社Local Dive(Local Dive株式会社 | 一次産業AI実装カンパニー)」の代表も務めておられます。
★山本さんに執筆いただいたレポートを掲載いたします。
気づき①~サイエンスと「改善」の徹底
最もコアな技術が土壌水分管理。「植物の9割は水でできているのに、水やりの基準や学問がない」という代表の問いから研究が始まり、土を握った感触で水分を1%単位で判定できるよう社員を訓練し、さらに土壌の種類ごとにA〜Fの6段階マニュアルへ落とし込まれていました。加えて、収穫・播種・水やりなど全作業を見取り図や断面図、写真付きでマニュアル化し、「誰でもまず70点が取れる」状態を目指しているとのこと。これらのマニュアルを社員自身が作成・改善している点も特徴的でした。社員の習熟度は「星取り表(スキルマップ)」で0〜4の5段階で可視化し、教える側もランク付けして指導方針やモチベーション管理に活用されています。トヨタのカイゼン文化のように毎週各部署で改善を回し続ける文化が根づいていると感じました。
気づき②~高瀬式ハウスの設計思想
通常のハウスは下部しか換気できず熱がこもりますが、高瀬式は「肩」の部分を換気できる構造で、夏場の暑さに対応。耐風50m対応かつ低コスト・高耐久を両立し、頻度の高い作業だけを自動化するなど、設計思想が随所に表れていました。


気づき③~アグリカルチャーソリューション(流通×コンサル)
栽培技術を農業法人へ無償提供し、果実堂の販路(全国250社・6,000店舗、国内スーパーの約3分の1)で流通させ、流通で収益化、また、施設の売り上げにつながる形になっている。まず土を送ってもらって分析し、肥料の使いすぎ是正と水分管理を行うだけで生産性が約3割向上する事例もあるとのこと。
気づき④~DX・AIの取り組み
市場に存在しないベビーリーフ専用機など、収穫機・播種機などをメーカーと共同で内製。さらにRPAやノーコードツールでの事務DX、Claude等を用いたAIエージェントや土壌診断AIの開発にも着手されていました。
感想
灌漑・土壌物理学の研究室にいたこともあり、土壌水分管理に着目して仕組み化していることに衝撃を受けました。「水やりに学問がない」という素朴な問いを、触診訓練と6段階マニュアルにまで落とし込み、誰でもどこでも再現できる形にしており、マニュアルと育成の両面で高い再現性がある仕組み化が、ここまでの規模拡大につながっていると思いました。創業初期からこの分野にRandDの部署をつくってきたということで、農業における数値化、可視化による現場の再現性の向上というアカデミアからも農業界からもなかなかできていないチャレンジを積み重ねてきた差分は大きいのだと感じさせられ、こういった会社や実例が大学の教育では全く触れられない、知られていないことを実感しました。また、ビジネス的な観点として肥料の削減やハウス内の機材配置の最適化といった費用をかけずに収量を上げる提案を行い、その収量の増加分を自社の開拓した販路で売っていくという方法はこれまでベビーリーフという単作物で流通網を拡大してきた果実堂さんの強みが生かされる形で今後も拡大していく可能性が高く、非常に先進的な事例となると思いました。

おわりに(IPCSA事務局)
改めて、今回学生さんの見学にご協力いただいた果実堂様、本当にありがとうございました。また、見学に参加した学生さんからも「大変有意義な一日だった」との声をいただいており、事務局としても大変嬉しく思っています。
IPCSAでは今後も、今回のように人と人、人と現場をつなぐ取組をはじめ、マッチングや人材育成に関する活動を進めていきたいと考えています。
「こんな人とつながりたい」「こんな現場を見てみたい」「こんな取組をやってみたい」など、ご要望やアイデアがございましたら、ぜひお気軽に事務局までお寄せください。会員の皆様の声をもとに、新たな学びや出会いにつながる機会を創っていければと思います。
今後ともIPCSAの活動へのご理解・ご協力をよろしくお願いいたします。
参考
▶果実堂 公式サイト
果実堂|ベビーリーフ生産量日本一