準天頂衛星システム「みちびき」が変える、農業のミライ ―みちびきの高精度測位が実現する省力化・効率化―(前編)
前編|衛星測位とみちびきの仕組み
農業分野では、担い手不足や作業の効率化への対応が大きな課題となっています。こうした課題の解決を支える技術の一つが、人工衛星を利用して位置を把握する衛星測位です。近年は、自動運転農機やドローンによる農地管理、森林資源の調査・測量など、その活用の幅が急速に広がっています。本記事では、農業のスマート化を支える衛星測位の基礎知識と、日本独自の衛星測位システムである準天頂衛星システム「みちびき」の特徴について紹介します。
衛星測位とは?
衛星測位とは地球を周回する人工衛星を使って、自分が地球上のどこにいるか、を測る仕組みのことです。スマートフォンの地図アプリや位置情報ゲーム、カーナビなどでも利用されているほか、様々な分野の産業でも活用されており、私たちの生活に欠かせない技術の一つです。
衛星測位では、衛星からの電波を受信するアンテナと、アンテナで受信した電波を解析し位置を計算する受信機が必要です。皆さんのスマートフォンにも小型のアンテナと受信機(チップ)が搭載されています。
衛星から発信される電波には、受信機と衛星との間の距離を測ることができる信号が含まれています。複数(通常は4機以上)の衛星との距離を同時に測ることができれば、受信機=自分自身の位置を割り出すことができる、という仕組みです。
衛星測位システムとして、多くの方がご存じの米国のGPSをはじめ、ほかにはロシアのGLONASS(グロナス)、欧州のGalileo(ガリレオ)、中国のBeiDou(ベイドゥ)、インドのNavIC(ナビック)があります。
日本では、独自の衛星測位システムである準天頂衛星システム「みちびき」を運用しています。

準天頂衛星システム「みちびき」の特徴
準天頂衛星システム「みちびき」は、衛星が日本の上空に長時間とどまるような軌道を利用した衛星測位システムです。衛星自体は楕円軌道で地球を周回していますが、衛星が地球を周回する間に地球も自転しており、地上から衛星を見上げると北側が小さく南側が大きい歪な8の時を描いているように見えます。
「準天頂」とは、衛星が日本付近の空高く(天頂近く)に長時間位置することを意味し、山間部や都市部でも安定して衛星信号を受信しやすくなるという利点があります。この「準天頂」を通る軌道の衛星を準天頂軌道衛星とよびます。
準天頂衛星システムは準天頂軌道衛星と静止衛星等の組み合わせで構成され、2018年に4機体制でサービスを開始しました。この準天頂衛星システムの愛称が「みちびき」です。現在(令和8年7月)は5機(準天頂軌道=3機、静止軌道=2機)の衛星で運用されています。GPSなど他国の衛星測位システムと連携しながら、位置情報の精度向上や測位の安定化を実現しており、重要な社会インフラの一つとして、さまざまな分野で活用が広がっています。
そして、このみちびきは内閣府 宇宙開発戦略推進事務局が主体となって管理・運用されています。

みちびき独自のサービス
みちびきは、GPS衛星と高い互換性を持ちながら、次のような独自のサービスを提供しています。
| サービス名 | サービス内容 |
| CLAS(シーラス) | 数cmの精度で測位できる補強情報を衛星から配信するサービス(国内向け) |
| MADOCA-PPP(マドカピーピーピー) | 数十cmの精度で測位できる補強情報を衛星から配信するサービス(国内+アジア大洋州地域) |
| SLAS(エスラス) | 約1m以下の精度で測位できる補強情報を衛星から配信するサービス(国内向け) |
| 災害・危機管理通報サービス | 地震や津波などの災害情報を、衛星経由で配信するサービス(国内+アジア大洋州地域) |
| 信号認証サービス | 受信した測位信号が本当に衛星から送信された本物の信号であることを証明するサービス(国内+アジア大洋州地域) |
CLASは利用できる範囲が国内および沿岸地域に限られますが、センチメータ級の測位精度が得られるようになるサービスで、農機のガイダンス、自動で肥料を散布するドローン、などに利用されています。
MADOCA-PPPはみちびきの衛星からの信号を受信できる地域(アジア大洋州)で10~数十cmの測位精度を得ることができ、国外の広範囲でも高い精度の位置情報が求められる場面に適しています。
SLASも国内での利用に限定されますが、およそ1m未満の精度で位置を把握することができ、受信機が比較的小型化しやすいため、カーナビやスポーツウォッチでの利用が広がっています。
災危通報サービスでは、みちびきから地震や津波などの災害情報を配信しており、災害発生時に地上の通信設備が使えなくなった場合でも、衛星経由で情報を得られるようになっています。
信号認証サービスでは、昨今問題となっている偽の信号による位置情報のなりすましを、電子署名と同じような仕組みで見破ることができます。
これらのサービスは無償で提供されており、使用にあたって申請や許認可等も必要ありません。ただし、通常のGPSとは異なる仕組みの信号を使っていますので、それぞれのサービスに対応したアンテナや受信機が必要です。

(ビズステーション株式会社)

(グリーンオン株式会社)

みちびき7号機の打上げと今後の計画
令和8年8月7日に、みちびき7号機が種子島宇宙センターからの打上げを予定しています。この打上げが成功すれば、みちびきを構成する衛星は6機となり、さらに利便性が向上します。
本来であれば、この7号機をもってみちびきは7機体制となり、他国の測位衛星に頼らずともみちびき単独での測位が可能となるはずでしたが、昨年12月のH3ロケットの打上げ失敗により搭載されていたみちびき5号機は失われたため、7機体制の実現は先の時期となってしまいました。
当面の間、打上げ予定のみちびき7号機を含め既存の衛星で変わらず安定したサービスを続けるとともに、早期の7機体制の実現に向けて努めてまいります。
また、将来みちびきは測位サービスの安定的な供給等を目的に、バックアップの衛星を含めた11機体制を目指しており、すでに新たな衛星の開発にも着手しています。

農業・林業分野への利用拡大の期待
衛星を使って位置を求めるためには、宇宙空間にある衛星から発信されている電波による微弱な信号を受け取る必要があるので、電波が届かない地下やトンネルに加え、室内では測位ができません。(室内でもスマホの地図アプリなどが使える場合がありますが、衛星測位とは別の仕組みで位置を算出しているそうです。)また、ビル街などでも衛星からの電波が遮断されると精度が悪くなってしまいます。
その点、農場などでは空が開けている場所が多く、衛星測位に適しています。海外の大規模農場では、以前からGPSを使った自動操舵や圃場管理のシステムが導入されていたようですが、GPSの精度(5~10m)では狭い農場の多い日本では導入が困難でした。しかし、みちびきの各種サービスによる高精度な位置情報を活用することで、日本の環境でも位置情報を基盤にした作業の効率化・省人化を進める動きが始まっています。
★後編では、農業分野でのみちびきの高精度測位の利活用事例を紹介します。
後編コラム「準天頂衛星システム「みちびき」が変える、農業のミライ ―みちびきの高精度測位が実現する省力化・効率化―」
みちびきウェブサイト&みちびき7号機打上げ特設サイト
内閣府と準天頂衛星システムサービス株式会社(※みちびきの実際の整備・運用等を行う運営会社)は、準天頂衛星システムに関する公式情報をみちびきウェブサイトで発信しています。
みちびきに関する技術情報から、みちびきを使った製品・サービスの一覧、利活用事例集など様々な情報を公開しています。
また、打上げが迫っているみちびき7号機の打上げ特設サイトでは、打上げに関する情報発信や応援メッセージの募集なども行っています。

https://qzss.go.jp/7satellite-constellation/index.html
そのほか、XやFacebookでも情報を発信しています。
X:https://x.com/juntencho?s=21&t=M-u3kUiM_oBHENvI81BgCA
Facebook:https://www.facebook.com/share/1CHWPaJFPi/?mibextid=wwXIfr
ぜひご覧ください。
【写真・図の出典】
本記事の写真・図の出典は、みちびきウェブサイト(https://qzss.go.jp)の提供です。
内閣府 宇宙開発戦略推進事務局 準天頂衛星システム戦略室
