コラム・関連情報
  1. HOME
  2. コラム・関連情報
  3. コラム一覧
  4. 研究開発型農業カンパニー あさい農園が行うスマート農業技術を活用したミニトマト栽培<前編>

研究開発型農業カンパニー あさい農園が行うスマート農業技術を活用したミニトマト栽培<前編>

9月30日に開催されたIPCSA(スマート農業イノベーション推進会議)設立準備会合で講演いただいた浅井さんにお話を伺うため、三重県で環境制御技術を活用したミニトマト栽培を行う(株)あさい農園、(株)アグリッドを訪問しました。

スマート農業技術を活用したトマト栽培の取組や、今後活動が本格化するIPCSAへの期待などを伺いました。

※第2部 アグリッドについては「研究開発型農業カンパニー あさい農園が行うスマート農業技術を活用したミニトマト栽培<後編>」をご覧ください。

あさい農園グループの概要

あさい農園や、グループ企業であるアグリッド、うれし野アグリでは、主にミニトマト、中玉トマトを栽培しています。

グループ全体で、栽培面積は約 13 ヘクタール(本社周辺に約4ヘクタール、アグリッド 4.2 ヘクタール、うれし野アグリ 3.1 ヘクタールのほか、福島県南相馬市にも 1.5ヘクタールの生産ハウス)、収穫高は年間約3000 トン、スタッフはパートタイムを含めて約 500 名です。

また、三重県玉城町などで、キウイフルーツの大規模栽培も行っています。

選果場と併設しているあさい農園本社事務所

第1部 あさい農園本社

あさい農園グループでは、環境制御ハウスでのデータを活用したミニトマト栽培を行っています。
最初に、本社事務所であさい農園グループの経営理念を伺いました。

各施設で用いているスマート農業技術はさまざまですが、全ての施設で CO2濃度や光量を図るセンサーを導入し、ハウス環境や養液、潅水をシステムで管理していて、データに基づく農業を実践しています。本社など一部のハウスでは、LED 補光ライトを活用しています。

本社に隣接して建つ環境制御型ハウス

スマート農業技術は最適化のための手段︕

何のためにスマート農業技術を入れるのか、目的をはっきりさせることが大切だと考えています。植物は正直なので、よい環境を整えればよく育つ。純光合成量を最大化し、それを果実や葉、根などに最適に分配する。

そのためにハウス内の環境制御技術を駆使して、最適化に取り組みます。まず、地下部(根域)は、培地の標準化により物理性・生物性を、養液管理により化学性をそれぞれ最適化することで、強い根が育ち、水・肥料をよく吸い上げます。

それを各器官に分配するための環境制御、光合成量を最適化するためであれば CO2施用や LED補光ライトも使い、純光合成量の最大化を目指しています。しかし、常にリアルタイムで最適条件は変化します。そこで、ハウス環境や植物体の常時モニタリングと環境制御によって最適環境を実現することになります。スマート農業は目的ではありません。環境を最適化することが目的で、その手段としてスマート農業技術を活用しています。

アグリッドでの養液栽培

最適化のためにはデータが不可欠

最適な条件が常に変化するので、スマート農業技術によるデータの利活用が欠かせません。当社では十数年トマト栽培を続けているので、ある程度のデータの蓄積はありますが、因子が多すぎて人間の頭の中では正解がわかりません。そこで、コンピュータが自動で分析して、最適な環境に向けてコントロールします。

最近は DX 化が進み、クラウドを経由してコンピュータ上で複数の施設をモニタリングすることができるようになりました。当社でも、データを比較分析できるソフトウェアを導入しています。これによって、複数の施設のデータを同時に見ることができるので、どこか1つで異常が発生した場合で、異常を発見しやすくなります。過去のデータとの比較も可能です。現場のグロワー(栽培管理者)もこれらのデータを見ながら、環境制御を行います。

温度、湿度、CO2など、さまざま指標がソフトウェアに表示されています。隣接するあさい農園本社の栽培施設だけでなく、遠く離れた福島県の施設のデータもリアルタイムで確認することができました。

産地・部会など データ共有のさまざまな枠組みも

1つの施設のデータを見るだけではわからないこともあり、最適化のためには複数の角度からの分析が必要になります。高知県で SAWACHI というデータプラットフォームに県下の施設園芸のデータを集積し比較分析している取組もあれば、産地単位でグループを作り最適化のための検討会を行っている取組もあります。データを有益に活用する方法もさまざまあるかと考えています。

データの活用以外にもスマート農業技術を取り入れられている浅井さんですが、収穫作業のスマート化についても伺いました。

ロボット導入も課題解決の一手段

収穫ロボットも課題解決の手段の1つです。ロボットによって何を代替し、どのような課題解決につなげるか、社会の変化に合わせて自らも変化していくことが必要です。デンソーとの共同出資で設立したアグリッドでは、技術実証という面が強いですが、人口減少や賃金の上昇など、常に変化する社会に備えるという目的を達成するための手段として、収穫ロボットの実証に取り組んでいます。このあとアグリッドで、実際に収穫ロボットを御覧いただきます。

社会システムの変化に合わせて自らの現状分析をすると、最適化できていること・できていないことが課題として見つかります。その課題解決のためのアプローチをしていくことが、経営を強めるために必要です。

IPCSA では、生産と開発の好循環を生み出していくことを目指して、スマート農業に関わる多様なプレーヤーの参画するコミュニティとして活動することを予定しています。IPCSA への期待について、浅井さんに伺いました。

連携によって生まれるイノベーション

自分の持っているリソース・持っていないリソースを自覚し、持っていないものを補完してくれる人との交流が大切です。予想もしない交流から大きなイノベーションが生まれることもあります。他者との連携をするときにも、どういった課題に対してどのような解決策があるか、何をインプットして何をアウトプットとして求めるかを意識する必要があります。アグリッドで実証を行っている自動収穫ロボットは、トマト生産技術に長けたあさい農園とロボット自動化技術を有するデンソーのお互いの強みを活かして、新たなイノベーションを創出するため、連携に至りました。

IPCSA を成功事例や失敗事例の共有の場に

イノベーションによって何かを生み出すための場を提供するのがプラットフォームの意味です。IPCSA も、共通の目的を持つ人たちが集まって1つの方向に向かうことで、イノベーションで生み出せるものも大きくなるし、期待感も出るのではないかと思います。

例えば、オランダでは、業界としてクラスターを作って取組を推進しています。環境制御システム大手の Hoogendoorn(ホーヘンドールン)社からスピンオフした Letʼs Grow システムは環境制御メーカー各社の API を共有して、業界最大手の Priva(プリバ)社などメーカーが違っても同じプラットフォーム内でリアルタイムでデータ比較をすることができます。オランダの業界は、オランダ国内だけでなく、世界で標準になることを目指して連携しています。技術立国を目指す日本でも、農業分野における技術輸出のポテンシャルがあると考えています。

IPCSA の話に戻ると、改善のためにスマート農業などの手段がありますが、手段があることを知らない人も多いです。IPCSA では、経営形態や規模ごとに、どのような手段があるか、そのメリット・デメリット、成功事例や失敗事例を共有できる場になるとよいと考えています。

IPCSA への期待について、日本農業の将来の思いを込めて語っていただきました。
本社での取材の最後に、あさい農園グループのスローガンを伺いました。

常に課題に向き合う「研究開発型農業カンパニー」

完璧な状態はなく、常に課題があり、終わりはありません。終わりがない課題だからおもしろい面もあります。あさい農園グループでは、「常に現場を科学する、研究開発型の農業カンパニー」をスローガンにし、これをアグロノミスト集団で実現しています。0から1を生み出すクリエイティブの領域は、AI ではなく人間に残されています。それぞれの感性・知的好奇心がアクションのきっかけでしす。これまで誰もやったことがないこと、現場で0から1を生み出すことをしてみようと思える、好奇心をもったアグロノミストを探しています。


関連記事

研究開発型農業カンパニー あさい農園が行うスマート農業技術を活用したミニトマト栽培<後編>