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4月のスマ農トピック②「SAWACHI」に学ぶデータ駆動型の栽培管理と営農支援-現場とデータをつなぎ続けてきた20年-前編|データが言葉を持ったとき、現場は変わり始めた

高知県では、施設園芸の現場を起点に、データを活用した栽培管理と営農支援の取組が、長年にわたり積み重ねられてきました。しかし、温度や湿度、CO₂といった数値を丁寧に測定しても、それが必ずしも現場の判断や行動につながらないという課題がありました。そのもどかしさは、各地の産地で繰り返し語られてきた共通の課題でもあります。「データはなぜ使われないのか」。その問いに、現場の最前線で向き合い続けてきたのが、高知大学IoP共創センター特任教授の岡林俊宏氏です。本前編では、岡林氏へのインタビューを通じて、データが単なる数値を超え、現場をつなぐ言葉として息づき始めるまでの試行錯誤と、その背後にある考え方をひもときます。

岡林俊宏氏とは?

岡林俊宏氏は、長年にわたり高知県の施設園芸やIPM(総合的病害虫管理)の普及に携わり、現場での実践と試行錯誤を重ねながら、データ活用の重要性を訴えてきた農業技術者・実務家です。データ連携基盤「SAWACHI」についても、農家や指導員とともに現場課題に向き合い、その活用と定着に関わってきました。現在は高知大学に拠点を移し、研究と現場をつなぐ立場から、データ駆動型農業の社会実装や人材育成に取り組んでいます。インタビューでは、データ活用が上手く進まない理由や現場とのギャップ、そしてそれらにどのように向き合い、乗り越えてきたのかについて、具体的な経験を交えながら語っていただきました。

データ駆動型農業とは?―高知県の施設園芸産地から

データ駆動型農業とは、温度や湿度、CO₂、日射量などの環境データや日々の出荷実績といった情報を活用し、経験や勘に頼るのではなく、データに基づいて栽培管理や経営判断を行う考え方です。高知県では、こうしたデータを個々の農家だけで完結させるのではなく、産地全体で共有し、営農指導や伴走支援につなげる仕組みづくりが進められてきました。

現場から始まったデータ活用の試行

岡林さんは長年、高知県の現場でデータ駆動型農業に取り組まれてきました。最初のきっかけを教えてください。

岡林俊宏氏(以下、岡林):私が高知県で施設園芸に関わり始めた頃、現場ではセンサーと言えるものは温度計しかなく、それも実際にはほとんど活用されていない状況でした。オランダでは1990年代から、温度や湿度、CO₂、光といった作物の光合成に必要なデータを測定し、それらを基に、農家同士が毎週議論して栽培管理を改善していました。一方で当時の日本では、経験や勘に頼る部分が主流でした。「このままではいけない」という思いから、養液栽培やIPMといった技術の導入と並行して、データを使った栽培管理の可能性を現場で試し始めました。

「データは共通言語」という発想

海外の産地事例にも目を向けてこられたとのことですが、実際に現地を見て、データの位置付けをどのように捉えるようになりましたか。

岡林:オランダではデータの取得や活用が特別なことではなく、産地を支える技術の共通言語として位置付けられていました。農家同士がデータを共有し、週単位で議論しながら管理方針を調整する。そうした仕組みがあるからこそ、規模が拡大しても品質や収量を維持できるのだと感じました。また、スペインの施設園芸産地を視察した際には、IPMについても個々の農家の取組に任せるのではなく、ハウス周辺の植生管理などを条例で定め、地域全体で天敵を温存する仕組みが整えられている点が印象に残りました。データの扱い方も同様で、個人のノウハウではなく、産地全体を支えるインフラとして位置付けられていました。これらの取組を見て、日本でも、データを「個人の道具」ではなく、「産地全体の基盤」として整備する必要があると感じています。

データは「見るもの」ではなく「使うもの」

データを測定しても、なかなか活用が進まないという声も多く聞かれます。

岡林:よくあるのは、指導員が農家にデータを「見せるだけ」で終わってしまうケースです。グラフをいくらきれいにまとめて農家さんに渡しても、それだけでは農家の行動は変わりません。大事なのは、「何を改善したいのか」「そのために、どのデータを、どう見るのか」を最初に共有することです。例えば、冬場の収量を伸ばしたいのであれば、温度だけでなく、CO₂や湿度の状態も含めて確認する必要があります。解決しなければならない課題を見つけたら、データに基づいて毎日の栽培管理を少しずつ見直していく。そのPDCAを一作を通して継続していけば、必ず成果につながります。

岡林氏が現場や教育の中で重視してきたデータ活用の考え方

データ活用というと、温度管理やCO₂管理といった環境制御を思い浮かべる方が多い印象です。

岡林:そうですね。温度や湿度、CO₂、水管理といった環境制御は重要ですし、多くの方がまずそこに注目します。ただ、データ活用はそれだけではありません。温湿度管理やCO₂、水管理といったいわゆる「制御系の管理」、機器や設定によって比較的コントロールしやすい領域です。一方で誘引や芽かき、摘葉、摘果といった日々の作業は、私は「ハサミの管理」と呼んでいますが、それは人の判断に大きく依存します。特にナスやピーマン、トマトやキュウリなどの果菜類では、「ハサミの管理」はとても重要で、その良し悪しが年間の収量に大きく影響してきます。データは機械を動かすためだけのものではなく、これら一つ一つのハサミの管理に対しても「なぜこの作業が必要か」「結果はどうだったのか」を振り返り、次の判断につなげるための材料にもなります。現在、IoPの研究開発が進み、作物の光合成量や蒸散量などの生理生態情報についてもデータで確認できるようになりました。また、画像解析により、開花数や着果数のカウントや葉面積指数などもデータで確認できるようになりました。今後は、それらのデータを「ハサミの管理」にも活用していくことで、季節や作物の生育ステージに応じて、最適な葉面積と受光態勢を維持し、開花数や着果数をコントロールし、さらなる安定生産・高品質生産につなげていくことができると考えています。データ活用は、単に正解を探すことではなく、仮説と検証を繰り返すことで進化につながるものだと思っています。

温度だけを真似すると、かえって失敗する

高収量の事例を参考にして温度管理だけを取り入れても、うまくいかないのはなぜでしょうか。

岡林:高収量農家を調べると、確かに日中の温度は高めに管理されています。ただ、それはCO₂施用や湿度管理とセットで行われているものです。成果を上げている農家の管理を聞き、「それならできそうだ」と温度管理だけを取り入れた結果、思うように収量が伸びなかった例もありました。温度だけを真似してハウスを閉め切ると、CO₂がさらに不足してしまう。湿度も飽和してしまい、蒸散も抑えられて光合成が落ちてしまう。光合成は、温度だけで高まるのではなく、温度と湿度とCO₂濃度のバランスが整ってこそ高まる。だからこそ、「測らないと分からない」ということを、現場で何度も伝えてきました。

★次回【後編】では、高知県で構築されたデータ連携基盤「SAWACHI」が、どのような考え方のもとで設計され、現場の伴走支援に活かされてきたのか、そしてデータ駆動型農業を全国へ広げていくための展望について伺います。

関連動画

※画像クリックでYouTubeに遷移します。

【写真・図の出典】
※本記事の写真・図・資料・動画は、岡林氏よりご提供いただいたものです。
・岡林氏 講演資料
・岡林氏による学生向け授業動画
「スマート農業1これがわかれば環境制御が語れるぜよ」
・写真:芸西村 提供(施設園芸産地の俯瞰)
・YouTube「DiVe LOUNGE」
「株式会社 高知IoPプラス岡林俊宏氏 vol.2農場・農業環境について」