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  4. 4月のスマ農トピック④「SAWACHI」に学ぶデータ駆動型の栽培管理と営農支援―現場とデータをつなぎ続けてきた20年―後編|共通言語から、伴走する仕組みへ

4月のスマ農トピック④「SAWACHI」に学ぶデータ駆動型の栽培管理と営農支援―現場とデータをつなぎ続けてきた20年―後編|共通言語から、伴走する仕組みへ

前編で見てきたように、データを現場の共通言語として根付かせるためには、測定装置や制御器を導入するだけでは足りませんでした。必要だったのは、データを「どう使い」「どう支えるか」という視点を、仕組みとして現場に埋め込むことでした。高知県では、こうした考え方を具体的な形にするため、産学官が連携し、データ連携基盤「SAWACHI」を構築してきました。後編では、SAWACHIがどのような考え方に支えられて設計され、営農指導や伴走支援の中でどのように機能してきたのかをたどりながら、データ駆動型農業を全国へ広げていくための展望について伺います。

★岡林氏の歩みをはじめ、高知県のこれまでの取組や、データ駆動型農業に注目するに至った背景などについては前編のコラムをご覧ください。

4月のスマ農トピック②「SAWACHI」に学ぶデータ駆動型の栽培管理と営農支援-現場とデータをつなぎ続けてきた20年-前編|データが言葉を持ったとき、現場は変わり始めた | コラム・関連情報 | スマート農業イノベーション推進会議(IPCSA)

「SAWACHI」が目指したのは、伴走できる仕組み

高知県で構築されたデータ連携基盤「SAWACHI」には、どのような思いが込められているのでしょうか。

岡林俊宏氏(以下、岡林):県内では、様々なメーカーのモニターやセンサーが普及しましたので、農家さんのデータを集めて比較したり分析したりしていくことは、現場にとって大きな負担でした。そこで、高知県が主体となり、産学官連携により、データを一元的に集約する仕組みとして整備したのが、「SAWACHI」です。「SAWACHI」には、環境データだけでなく、JAの出荷データや気象データも共有されます。これにより、「去年はいくら取れたのか」「今年はどこを伸ばしたいのか」といった話を、数字を基に、農家と指導員が一緒に考えることができるようになりました。データはあくまで道具であり、目的は農家さんの経営改善です。農家にとっては「毎日の営農のペースメーカー」、指導員にとってはその農家さんとデータを常に共有できる「伴走支援ツール」を目指してきました。

学生とのやりとりで気づいた「伝え方」の課題

SAWACHIのような仕組みを現場で活かすために、人材育成の面で感じている課題はありますか。教育現場で印象に残った出来事があれば教えてください。

岡林:大学で学生にデータを使った栽培管理を教える中で、グラフの読み取り自体はできていても、「なぜその温度になるのか」という前提が共有できていないことに気づきました。例えば、冬の晴天時、暖房を使わなくてもハウス内は25℃を超えることがあります。しかし、学生の中には、「25℃=暖房を焚いた結果」と理解してしまう人もいる。これは、ハウス環境を自ら作った経験がないと理解しにくい部分であり、データと現場の状況とが結び付いていないギャップを感じました。エアコンで自分の部屋を25℃に保つためには、リモコンを25℃にセットして暖房か冷房にセットすれば簡単にできます。しかしながら、ハウスを25℃に保ち、光合成に最適な湿度やCO₂濃度も合わせて整えていくためには、外気象に対して、天窓・サイド換気・カーテン・ミスト・循環扇などハウス内の様々な付帯設備を統合的に制御していく必要があります。季節、天気の状況、さらに時間帯によっても刻々と変化する外気象に対して、どうすればより最適な管理ができるのかをイメージできるようになることが大切です。この経験を通じて、データ活用の難しさは技術ではなく、前提の共有にあると感じるようになりました。普及指導員の研修でも、データの値が適正かどうかを見るだけではなく、「外気象の変化に対して、どういう管理をすればハウス内の環境がどう変わるか」を体感するプロセスが重要だと感じています。

データ駆動型農業を全国へ

こうした人材育成や前提共有の重要性を踏まえて、今後、データ駆動型農業はどのように広がっていくとお考えですか。

岡林:「SAWACHI」で構築したデータを集める仕組みと、集めたデータを使う仕組みは、産地全体を支えるインフラだと考えています。県ごと、メーカーごとに分断されたままでは、産業としての広がりは期待できません。「SAWACHI」を全国で共通して使えるインフラ(データ連携基盤)として、その上に、自治体や民間、研究機関が参加できる形ができれば、データ駆動型農業がもっともっと全国に普及していけるようになっていくと思います。地方からでも新しい取組が生まれやすくなる。高知での経験が、その一つの参考になればと思っています。

Next SAWACHI~全国展開に向けた次の段階~

今後の展開を見据えて、「Next SAWACHI」という次の構想があるようですが、どのようなものなのでしょうか。

岡林:SAWACHIは、研究・実証を重ねながら段階的に機能を積み上げてきたシステムです。その分、現状ではいくつかの課題が顕在化しています。まず、運用コストの問題です。機能が増えるにつれてシステムが複雑化し、コストが高くなりすぎています。今後も持続的に活用していくためには、本当に現場で使われている機能に絞り込んで、思い切ったコストダウンを図っていく必要があります。次に、新機能の開発体制です。現状では新たな機能を追加しようとすると外部委託に頼らざるを得ず、時間もコストもかかります。研究開発(R&D)や新機能の開発をできる限り内製化することで、必要な機能を迅速に、低コストで付加できる体制を整えることが急務です。そして、データの活用範囲の拡大です。現在は県やJAはデータを活用しやすい体制が整っていますが、大学や企業が研究開発や製品開発に活用しようとすると、データへのアクセスが難しい状況にあります。産学官が連携してデータを活かせるよう、アクセス環境を整備していくことが必要です。こうした足元の課題を一つひとつ解決しながら、SAWACHIを「地域内で使う仕組み」から「地域や組織を越えて活用できる共通基盤」へと、着実に進化させていくことがNext SAWACHIの目指す姿です。

データ連携基盤として「データを集める仕組み」と「集めたデータを分析・診断してフィードバックする仕組み」を全国で共有していくというSAWACHIの方向性は、とても重要だと思います。一方で、農家や産地のデータそのものを広く共有していくことは、現実的にはなかなか難しいのではないでしょうか。

岡林:おっしゃるとおりで、高知県内においても、ライバル関係にある産地同士、あるいは県を越えて生のデータそのものを共有することへのコンセンサスは、まだ形成されていないのが正直なところです。ただ、もう少し先の将来を見据えると、考え方が変わってくるのではないかと思っています。この1〜2年の生成AIの進化が象徴しているように、近年の気候変動や刻々と変化する社会情勢の中で、農業が持続的に発展していくためには、データをクローズドに保ったまま小さな産地間競争を続けるよりも、データを活用・分析するための基盤を共通化し、そこから生まれる知見をオープンに共有しながら、より大きな目標に向かって切磋琢磨していく道を選ぶべきだと私は考えています。

「稼げる」実感が、次の一歩につながる

最後に、データ活用に取り組もうとしている方へのメッセージをお願いします。

岡林:データ農業は難しいことではありません。まずは「去年より1割、2割伸ばしたい」という具体的な目標を自分自身で決めて、そのために必要なデータを見る。それを毎日の管理に少しずつ反映していく。成果が見え始めると、自然と次の改善点が見えてきます。データは、その気づきを後押しする存在だと思っています。大切なのは、今日より明日、一歩だけ工夫してみるということです。大きな変革を一気に目指す必要はありません。小さな気づきを積み重ねていくことが、やがて大きな成果につながっていく。データ活用とは、そういう日々の小さな一歩を支える道具だと思っています。

関連動画

※画像クリックでYouTubeに遷移します。

【写真・図の出典】
※本記事の写真・図・資料・動画は、岡林氏よりご提供いただいたものです。
・岡林氏 講演資料
・岡林氏による学生向け授業動画
「スマート農業1これがわかれば環境制御が語れるぜよ」
・写真:芸西村 提供(施設園芸産地の俯瞰)
・YouTube「DiVe LOUNGE」
「株式会社 高知IoPプラス岡林俊宏氏 vol.2農場・農業環境について」

編集後記

高知県のデータ駆動型農業は、机上の理論から生まれたものではありません。現場に足を運び、農家と向き合い、思うようにいかない現実に何度も直面しながら、少しずつ積み上げられてきた取組です。その根底には、「データを使って農家が稼げる農業を実現したい」という思いでした。現場とともに考え、悩み続けてきた20年の時間が、今の取組につながっています。