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現場なくして課題なし、課題なくして技術なし ―オランダの先進事例に見る、スマート農業技術と農業現場の新たな関係―

第2回IPCSA総会の基調講演では、20年以上にわたりオランダでジャガイモを栽培する先進農業経営者Jacob van den Borne氏へのインタビュー動画を上映し、収量マッピング等のスマート農業技術を活用した農業の考え方や実践について紹介しました。
Jacob氏が示していたのは、技術の導入そのものを目的とするのではなく、まず現場の課題を見極め、その解決に資する手段として技術を位置づける考え方でした。
また、Jacob氏の言葉から一貫して感じられたのは、データやデジタル技術は、農業者の経験や勘を置き換えるものではなく、それらを見つめ直し、次世代へつないでいくための手段になり得るという視点です。
本コラムでは、総会で紹介した内容をもとに、Jacob氏のスマート農業に対する視点をご紹介します。

デジタル技術をどのように捉えているのでしょうか

私にとって、技術はあくまで道具です。予定表や、忘れないようにするためのアプリのようなものであって、何をすべきかは今でも私たち自身が分かっている、と私は考えています。私がスマート農業技術を導入した際、周りの人は私が「オフィスにこもるようになる」と思っていたようですが、逆です。データはどこへ行くべきかを知るために使い、その場所で実際に手を汚し、作物の中に入り、見て、触れて、確かめることが必要だと思っています。
 

データ活用は、営農の中でどのような意味を持つのでしょうか

私たちは収量マッピングを通じて、同じ圃場、同じ作物、同じ施肥でも、場所によって収量に50%以上の差があることを確認しました。
こうした違いが見えると、圃場のどこに改善の余地があるのか、どこを見に行くべきかが分かりやすくなります。私にとってデータは、圃場のばらつきを把握し、次に何を確認すべきかを考えるためのものです。
私は、データを見ることで栽培の勘が失われるとは思っていません。むしろ、課題がある特定の場所を把握することができ、勘は失われるどころか、磨かれていくのではないかと考えています。

技術導入は、どのような考え方で進めることが重要なのでしょうか

私が重要だと考えているのは、技術の前に、まず解決すべき課題があることです。技術開発者の話を聞くと、たいてい私の農場には当てはまらない課題を想定しています。むしろ、私は農業が抱える問題を伝えたいのです。多くの農業技術は、開発された後に、「何の役に立つのか」を探します。しかし、本来はその逆です。現場に課題があり、その課題を解決するために技術を選ぶべきだと考えています。
私自身、新しい技術の評価を行う際には、まずその仕組みを理解し、それから試験区で実証し、さらに採算性も見ます。技術として動いたとしても、自分たちの農場の運用に合わなければ、導入しないこともあります。

将来の農業は、どのような方向に向かうと考えているのでしょうか

将来の農業では、現在とは異なる形で技術が活用される可能性があります。その際に重要なのは、自然の仕組みから学ぶ視点です。農業技術を考える際にも、「自然ならどうするか」を手掛かりにするべきだと考えています。例えば、現在一緒に開発に取り組んでいる企業では、雑草除去技術として多く提案されるロボットやレーザーではなく、四足歩行の犬型ロボットを開発しています。私も当初は、農業ロボットであれば車輪やクローラーの方が適しているのではないかと考えていました。しかし、もし土の上を移動するうえでそれらが本当に最適なのであれば、自然界の生き物もそのように進化していたはずです。自然界で四足歩行が広く見られるのは、それだけ合理的な理由があるからではないでしょうか。開発企業は、転倒したり溝に落ちたりしても立ち上がって再び進める点で、犬型ロボットには利点があると考えています。 

デジタル技術は、次世代への継承にどのようにつながるのでしょうか

私は、栽培の勘のようなものは、むしろ次世代に伝えるのが難しいと考えています。
だからこそ、勘を引き出すような形でツールやアプリを設計し、圃場の状態や違いが見えるようにすることには意味があると思っています。データを自分で体験することで、先の世代が培ってきた感覚を、次世代に引き継げるのではないかと考えています。

日本へのメッセージをお願いします

最初の一歩は、改善の余地があるかどうかを見ることです。隣の農業者が何をしているのか、自分と比べてどこに違いがあるのかを見ることも、その出発点になると思います。そして、改善できると思えるのであれば、その課題に合う技術を選びます。
まずは「改善できる余地はあるか」と、自分自身に問いかけ、ただ便利な技術を入れるのではなく、課題を起点に考えることが大切です。

総評

今回のJacob van den Borne氏の事例で特に印象的だったのは、技術の新しさや機能を起点に導入を考えるのではなく、まず自らの経営課題と目指す経営の姿を明確にし、その解決や実現に適したスマート農業技術を選ぶことです。

IPCSAが進める関係者間のマッチングや、プラットフォームの取組においても、こうした考え方は重要な視点となります。現場で認識されている課題やニーズと、それに対応し得る技術や知見とを結びつけ、利用者にとって分かりやすく活用しやすい形で共有していくことは、今後ますます重要になると考えられます。

IPCSAのプラットフォームの取組については、以下からご覧いただけます。
/report/tags/platform.html

今回の内容は、先端技術そのものの新しさだけでなく、それをどのような課題認識のもとで位置づけ、現場に根差した形で生かしていくかを考えるきっかけとなるものでした。IPCSAでは今後も、こうした国内外の取組や知見を共有しながら、関係者の連携や理解の促進につながる情報発信を進めていきます。

参考

2026年度総会基調講演に関する第1回コラム(Odd.bot社)についてはこちらからご覧いただけます。(化学除草と手作業除草の間を埋める ―オランダ発・自律型除草ロボット「Odd.Bot」が描く持続可能な農業―


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