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ー大学生が見た植物工場の現場ー 農研機構「植物工場つくば実証拠点」見学レポート

IPCSAでは、スマート農業に関する情報発信や関係者同士のマッチングに加え、次世代を担う人材の育成も大切なテーマの一つとして取り組んでいます。今回は、朝日新聞社の「農と食の未来を考えるプロジェクト」に参加している学生さんたちと一緒に、農研機構の「食と農の科学館」と「植物工場つくば実証拠点」を訪ねました。研究者の方のお話を伺い、植物工場の中を歩いてみることで、現場ならではの学びがたくさんあった午後の様子をご紹介します。

見学の背景

朝日新聞社「農と食の未来を考えるプロジェクト」は、日本の「農と食」の現状と課題を、これからの社会を担う若い世代と一緒に考え、発信していこうという企画です。約40名の大学生がテーマごとにチームをつくり、ワークショップやフィールドワークを重ねながら、10月の成果発表に向けて準備を進めています。6月のワークショップでは、農林水産省技術政策室の阿部室長が「農業とテクノロジー」をテーマにお話をさせていただきました。
その後、同じテーマに取り組む学生さんから「スマート農業の技術が、現場でどう使われているのかを自分の目で見てみたい」という声が寄せられ、今回、農研機構の施設見学が行われました。
参加したのは、大学生の近藤由知さん、乘松慧太郎さん、水谷真菜さん、軽部里咲さんの4名。メンターの全農の日髙秀俊さん、萩原啓貴さん、朝日新聞社の古屋雄斐さんも同行されました。

食と農の科学館の見学

9月7日(月)の午後、一行はまず「食と農の科学館」へ。野菜花き研究部門研究推進室の仁木智哉さんに館内の概要を案内してもらった後、農業用ドローンや運搬ロボットなどが並ぶスマート農業のコーナーを見学しました。実物を前にすると学生さんからは自然と質問が出て、和やかな雰囲気のなかで見学が進みました。科学館の展示については、4月のコラムでもご紹介していますので、あわせてご覧ください。

野菜花き研究部門小田グループ長のお話と質疑応答

館内では続いて、野菜花き研究部門の小田篤グループ長から、農研機構が施設園芸分野のデータ活用のために開発したツール「NARO生育・収量予測ツール」や「植物工場」についてお話を伺いました。
植物工場は植物の生育に必要な光をLED照明などで賄う「完全閉鎖型」と、太陽の光を取り入れながら、温室の中の温度や二酸化炭素濃度などを積極的にコントロールする「太陽光利用型」に分類され、同日見学する「植物工場つくば実証拠点」は太陽光利用型との解説がありました。日本では農業の担い手が減っており、施設園芸では65歳以上の方が今では7割ほどだそうです。少ない担い手でも国産野菜をしっかり作り続けるには、植物工場のような、面積あたりの生産効率を上げていくことが欠かせないと、研究の重要性について教えていただきました。

このお手本はオランダ。トマトの収量は10aあたり約65トンで、日本の平均約12トンの5倍以上です。ただ、日本のトマトには「甘さ」という強みがあります。日本のトマトを召し上がったオランダの国王が「これがトマトなのか」と驚かれたというエピソードに、会場の空気が 和みました。
では、どうやって収量を上げるのか。ポイントは「葉の枚数」だそうです。トマトを上へ上へと伸ばして葉を増やし、受ける光の量を増やして光合成を速める。葉が出る速さは温度で決まるので、この仕組みを数式にすると「いつ、どのくらい収穫できるか」が計算できます。これが農研機構の「NARO生育・収量予測ツール」で、暖房や二酸化炭素の利用にお金をかける前に「損か得か」を見積もれるのが一番のよいところ、とのことでした。この技術で、甘さを保ったままオランダに近い収量も達成されているそうです。
質疑応答では、「農研機構の生育・収量予測ツールは実際に農家の方が使っているのですか」「野菜の値段はこれからどうなっていくのでしょう」といった、現場に踏み込んだ質問が次々に出ました。ツールは民間の会社がサービスとして提供され、農業現場で活用されていること、日本のイチゴが海外では1パック3,000円ほどで売れていることなど、一つひとつ丁寧にお答えいただきました。
お話のあとは、館内の植物工場のトマト栽培エリアを模したブースへ。トマトの実物と植物工場の模型を前に、従来の農業では面積で生産を考えていたところで、植物工場は体積で農業生産の領域を考えることと、そのために「上に伸ばす」仕立て方や温室の構造を教えていただきました。

植物工場つくば実証拠点の見学

いよいよ実証拠点へ。着いてまず目に入ったのは、大きな箱のような装置「苗テラス」です。閉じた箱の中で、人工光と空調によって温度や湿度、光を一定に保ちながら苗を育てる装置で、扉を開けると白い光の下に緑の苗がずらりと並んでいました。側面のパネルで温度や点灯時間を設定しているそうです。

温室の中では、肥料を溶かした水(養液)を根元に送る給液のしくみと、天井から細かな霧を出す細霧冷房(ミスト)について解説していただきました。霧は温室を冷やすためだけではなく、葉の表面にある小さな穴「気孔」が閉じて光合成が止まってしまわないよう、空気の乾き具合を整える役目もあるのだそうです。ちょうど霧が上がる時間に当たり、白く煙る温室の中を歩くことができました。
ベンチの上に整然と並ぶ苗も見学し、温室の中での質疑では「植物工場の費用対効果はどうなのか」「設備投資の資金は銀行から借りられるのか」といった、経営の視点からの質問も出ました。学生さんはメモを取り、写真を撮りながら熱心に質問を重ね、最後は拠点の看板を囲んで記念撮影。見学を終えました。

おわりに

改めて、今回の見学にご協力いただいた農研機構野菜花き研究部門の皆様、ありがとうございました。今回の見学で得た「現場の手触り」が、学生さんたちの成果発表でどんな発表につながるか、事務局としても楽しみにしています。
今後ともIPCSAの活動へのご理解・ご協力をよろしくお願いいたします。
農林水産省大臣官房政策課技術政策室 中江庸介

参考
▶農研機構 植物工場つくば実証拠点(野菜花き研究部門)
▶農研機構 施設園芸作物の生育・収量予測ツール/WAGRI(農業データ連携基盤)
▶農研機構 食と農の科学館 公式サイト
▶4月のスマ農トピック③―「農研機構 食と農の科学館」の見どころを紹介!―
▶朝日新聞デジタル「学生チームが始動 ワークショップで理解深める『農と食』の未来図」